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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)654号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人人見福松の上告趣意第一点、第四点、第五点の一の(ロ)、第九点の(ハ)及び第一〇点について。

所論は極めて乱雑であり且つ重複しているが、結局第一審又は原審の裁量を非難し若しくはその訴訟法違反を主張するに帰するものと解されるから、明らかに刑訴四〇五条に定める上告理由に当らない。そして、公訴事実の同一性は、犯罪の性質、態様、被害数量等が異っていても基礎たる事実が同一であればこれを認めても差支えないものであるから、原判決には所論のような誤解又は誤認は認められない。次に、審理の範囲、程度等は事実審の裁量に属することはいうを待たないし、また、訴因を予備的に(すなわち当初の訴因が否定される場合の予備として)追加又は変更し得べきことは刑訴二五六条五項、三一二条により明白であり、且つ、公訴事実の同一性を害しない限度における訴因の追加(新たな訴因を附加すること)と変更(同一訴因の態様を変更すること)とは、その法律上の効果を異にしないから、追加を変更と誤認しても判決に影響なきは勿論第一審においてした訴因の変更又は追加を第二審において更らに改めて追加又は変更する手続を執る必要はなくまた、有罪、無罪は公訴事実に対しなさるべきものであるから、公訴事実が同一である以上その範囲内の追加又は変更前の訴因でこれを否定すべきものについては主文において無罪を言渡すべきではない。従って、原判決には結局所論の違法又は不当が認められないから、刑訴四一一条を適用すべきものとも思われない。

同第二点及び第一一点について。

しかし、原判決は前に被告人のためになされた弁護人の選任の効力は当然その選任後同一被告人に対し起訴される一切の被告事件に及ぶものと断定したのではなく、曩に選任された弁護人の弁護権は被告人その他選任権者におてい特段の限定を為さない以上同一の機会に追起訴され且つ一つの事件として併合審理された被告事件の全部に及ぶものと解するを相当とすると判断したに過ぎないものであって、原判決の見解は正当であり、これを是認することができる。従って、原判決の判断は所論名古屋高等裁判所の判例(選任行為に因って明示された事件に限る)と必ずしも相反するものではないし、また、所論大審院の判例は、数個の出版法新聞紙法違反事件に係り本来旧刑法の数罪倶発の例を用いないか又は刑法併合罪の規定を適用せず、従って、併合審理した場合でも裁判の各一部に対し独立して上訴を許す(旧刑訴三八〇条、刑訴三五七条参照)案件に関する原審弁護人の上訴権の有無についての判例であるから、本件に適切ではない。従って、所論は結局刑訴四〇五条三号に当らないし、また、仮りに当るものとしても同四〇一条二項に従って右判例を変更して原判決を維持するを相当と認める。その他法令違反の主張はいずれも刑訴四〇五条所定の上告理由に当らないから採用し難い。

同第三点、第五点の四、第一二点及び第一三点について。

しかし、所論判例はすべて本件には適切でなく、従って、原判決は刑訴四〇五条二号又は三号に該当する判例違反の判断はしていない。それ故所論は、単なる法令違反を主張するに帰し同条所定の適法な上告理由に当らないばかりでなく、所論公判調書の冒頭には被告人の氏名は書いてないが、公判調書中には書いてあり、従って、被告人に対する第五回公判調書であることが同調書自体で判るから、原判決には所論のごとき法令解釈上の誤解は認められない。されば、同公判調書が無効であるとの主張並びにこれを前提とする論旨は刑訴四一一条一号所定の法令違反の主張としても採用し難い。

同第五点一の(イ)、同二及び同三並びに第九点の(イ)及び(ロ)について。

第一審判決は、判示第二事実を認定するのに小林邦男作成の盗難被害届及び盗難品追加届中の記載、司法警察員作成の差押調書中の記載、証人田中拓一並びに被告人の公判廷における供述等を綜合して認定したものであるから、被告人の自白を唯一の証拠とした違憲は認められない。その他事実誤認又は訴訟法違反等の主張はすべて刑訴四〇五条所定の上告適法の理由とならない。

同第六点乃至第八点について。

論旨第八点は量刑不当の主張であり、その余の論旨はすべて単なる訴訟法違反の主張と解されるから、刑訴四〇五条所定の上告理由に当らない。

よって、同四〇八条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

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